ああ玉杯に花うけて

ああ玉杯に花うけて

佐藤紅緑

豆腐屋とうふやのチビ公はいまたんぼのあぜを伝ってつぎの町へ急ぎつつある。さわやかな春の朝日が森をはなれて黄金こがねの光の雨を緑の麦畑に、黄色な菜畑に、げんげさくくれないの田に降らす、あぜの草は夜露からめざめて軽やかに頭を上げる、すみれは薄紫うすむらさきを開き、たんぽぽはオレンジ色のかんむりをささげる。せきの水はちょろちょろ音立てて田へ落ちると、かえるはこれからなきだす準備にとりかかっている。
チビ公は肩のてんびん棒にぶらさげた両方のおけをくるりとまわした。そうしてしばらく景色に見とれた。堤の上にかっと朝日をうけてうきだしている村の屋根屋根、火の見やぐら、役場の窓、白い土蔵、それらはいまねむりから活動に向かって歓喜の声をあげているかのよう、ところどころに立つ炊煙すいえんはのどかに風にゆれて林をめぐり、お宮の背後うしろへなびき、それからうっとりとかすむ空のエメラルド色にまぎれゆく。

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